何もしないファシリテーターイメージ

執筆者: 水上 益満

何もしないファシリテーター

勝手に”スゴ技”認定しました

あるとき、有名な体験学習の先生をお呼びし、
「人間関係ファシリテーション」を体験する機会がありました。
参加者は、ファシリテーションを学ぶいつもの仲間です。

 

全員が車座になったところで、先生はにこやかに、
「じゃあ何をしますか?私は何もしませんよ。さあ、始めてください。」
と言ったきり、黙ってしまいました。
体験を楽しみにしていたメンバーは騒然ですが、
先生は、そんなこと気にも留めません。

 

我慢しきれなくなった人が、
「せっかくなので、最近の悩み事や解決したいことを書き出しましょうか」
と提案し、ホワイトボードに向かうと、先生は、
「そういうのは今日はやめませんか。いつもさんざん、やっているでしょう」
と言って、また黙ってしまいます。

 

「それでは、いったい何をしろって言うんですか?!」
訊ねると、先生がやっと一言。
「今ここで起きていることを話し合ってみるといいんですよ」

 

(そんなこと言っても、まだ何も始まっていないのに・・・)

 

先生は、更に言いました。
「本当に、何も起きていないですか?」

 

ここへきて、ある参加者が話し始めました。
「この会では、いつも同じ人が仕切っているので、少し疎外感を感じていました。
今日はそれがなくていいですね」

 

これがきっかけとなり、この場の空気感や感情、思い浮かんで来たことが
参加者の中から次々と言葉になって出てきたのです。
この体験を通して、「集団の中で生まれる感情」に鋭敏になり、
「今ここで起きていること」をしっかり観察する大切さを学ぶことができました。

 

ファシリテーターが、発した言葉は、
「私は何もしませんよ」「コンテンツを話し合うな」
「今ここで起きていることを話し合え。ほんとうに何もおきてないですか?」
の3つだけですが、このエピソードの中に「スゴ技」が隠れているように思うのです。

 

一つは、「お互いの表情が見える場づくり」。
言葉だけでなく、ノンバーバルなやり取りを意図しています。
二つめは、「反応がでてくるまで待つ」こと。
ファシリテーターにとっては勇気のいることなのですが、
参加者のほうから発言が出てくるまで辛抱強く待ちます。
最後に、「さりげない誘導」です。
参加者が自分たちの内面(気持ち、感情)に目を向けるように、
さりげなく、効果的な言葉を投げかけています。

 

特に、「反応がでてくるまで待つ」と「さりげない誘導」は、
出来るようでなかなか出来ないスゴ技ではないでしょうか。

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