ささやかなプロフェッショナルイメージ

執筆者: 小林 智明

ささやかなプロフェッショナル

人間観察日記

NHKに「プロフェッショナル~仕事の流儀~」という番組がある。様々な分野のプロが登場するのだが、その主人公達に最後に問いかけられる質問が<!–more–>決まっている。

「あなたにとってプロフェッショナルとは?」

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話は変わるが、私は主に企業研修の講師・トレーナーを生業としているため、毎日あちこちの研修会場を渡り歩いており、オフィスにいることは滅多にない。そんな私にとって、もうひとつの仕事場がいわゆるカフェだ。

移動中のメールチェックや資料作成などはほとんどそこで済ませる。カフェなどどこも一緒と思っている方もいらっしゃると思うが、実はそうでもなく、それぞれの店によって趣は結構異なっている。

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先日、どうしてもメールしておきたい資料があって、夜遅くの閉店間際に、あるカフェに立ち寄ったときのこと。いつものようにオーダーをすると、熱いコーヒーとともに笑顔の店員さんの「遅くまでおつかれさまです!」という言葉が返ってきた。不意を突かれた私はちょっと照れながら「こちらこそ」なんて間の悪い返事をしてしまった。

まあ取り立てて言うほどのことでもない、ごく普通の挨拶である。一昔前なら気にも留めなかったかも知れない。でも、混み合った電車の中で後ろから「すみません」の一言もなく押して出ようとする人がいる昨今にあって、そのときの若い店員さんの「おつかれさまです」の言葉は、人影も少なくなった店内で私の心に刺さった。

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通常、店の従業員が最初にお客様にかける一般的な言葉は「いらっしゃいませ」であろう。しかしながらその店では、「いらっしゃいませ」を耳にしたことは一度もない。朝なら「おはようございます」、昼なら「こんにちは」、そして夜なら「こんばんは」である。勿論、その店にはその店のサービス方針があり、それに沿った従業員教育を行なっているのだと思う。ただ、一方でお客様に対する声がけも最後のところはその人の意識の持ち様であり、人間性だろうとも思う。そう考えると、「遅くまでおつかれさまです」という言葉もまた、店員さんの意識の高さから生まれたものだとも言える。別に取り立ててすごいことではないかも知れないけど、こうした仕事ができる人を私は「ささやかなプロフェッショナル」と呼びたい。

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また別の、ある雨の朝のこと。私は主要ターミナル駅にあるカフェの窓際の席でノートパソコンと格闘をしていた。目の前は長距離バスの降り口になっていて次から次へとバスが到着するため(大丈夫かな?)と思っていたら、雨合羽を着たひとりのおじさんが見事な手さばきでバスを誘導していた。バスの乗客ができるだけ雨に濡れないような場所に、それでいて渋滞が起きないように、大きな声とアクションでバスを導いている。私は急ぎの仕事も忘れてしばしその姿に見とれてしまった。

やがてバス到着のピークが過ぎたのか、誘導員のおじさんは、「フーッ」と大きな息をつき、降り続く雨の中をやや猫背でゆっくりと歩き始めたかと思うと、私の視界から消えていった。

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ここにもまた、「ささやかなプロフェッショナル」が確かにいた。

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