相手が「わかる」と、行動が「かわる」イメージ

執筆者: 大嶋 友秀

相手が「わかる」と、行動が「かわる」

ア・ラ・カルト

私は営業パーソンとして、窯業、建築、広告マスコミ業と、幅広い業界を経験しました。中でも一番長く従事したのが、建築業界です。建材メーカーで10年ほど、マンションの大規模修繕工事を担当していました。そのため、居住者、設計の先生、建設会社の代理人、工事会社の人、そして現場の職人さんなど、工事におけるステークホルダーと呼べる人たちと接する必要があったのです。様々な立場やバックグラウンドの方の理解を得ることは簡単ではありませんでした。しかしその時の苦労が、今の私の「わかりやすく伝える方法」につながっていると感じるのです。

 

あるとき、私は設計の先生に新製品の説明をすることになりました。材料の説明は、専門的になりがちです。そのときは、新製品のアクリル系シリコン塗料を売り込もうとしていたのですが、なぜそれが優れているかといえば、樹脂の優劣の話で「シロキサン架橋型結合」をするためで、単なる「シロキサン結合」とは違って・・・と化学の話になってしまいます。設計の先生は明らかに、ピンときていません。そこで、こんな例えを使ってみました。

「ここに100%のオレンジジュースがあったとしましょう。隣には10%果汁入りのオレンジドリンク。どちらを飲みたいですか?」
「そりゃ、やっぱり、100%のジュースでしょ」
「そうですよね、実はこの製品には、そのくらいの成分の差があって、××の効果も違うのです」
「‥なるほど、わかった!」
驚くぐらいすぐに、その先生は私の会社の製品の良さを理解し、その結果、採択してくれました。まさに、伝えたいことが相手に「わかる」と相手の行動が「かわる」、という瞬間でした。

 

また、別のときには、住民の方にマンション改修で使う塗料の価格に納得いただけないということがありました。工事で使う建築材料が、日曜大工で使うペンキのようなものと理解され、価格が高すぎると思われてしまったのです。理事に女性が多かったこともあり、私はこんな説明をしてみました。
「建築塗材は、ネイルと同じです。ベースを塗って、色をつけて、トップコートを重ねます。このように、どうしても工数がかかるものなのです」
この説明で、理事の方々にも理解していただき、無事、工事を進める方向に話がまとまりました。

 

今、私は、講師として「人にわかりやすく伝える方法」を教えています。受講生は、あらゆる階層の人、社内講師の人や研修講師の人たちにも、どうしたら聞き手に「わかった!」と言ってもらえるかを指導しています。相手に「わかる」ように伝えるのは簡単ではありません。しかし、相手が「わかる」と、行動が「かわる」のです。私は今、研修という仕事のなかで、「わかる」が「かわる」瞬間に立ち合わせてもらっています。

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